己の行く手に待つ絶対的な终末を、しっかりと闭じた睑の里侧に焼き描きながら、ディルトは魔族の低い声が『ならば望み通り、死ね!』とテールに命じる瞬间を唇を结んで待ち临んだ。
もはや、恐れる物など何もない。
「こんな……こんな事をして……下らぬ时间を使うくらいなら……ひと思いに――ひと思いにこのテールで俺を杀して……『勇者を讨った』と声高に騒げばいい――!!だが……!だが、な……!!例えここで俺が死んでも、必ず――!!必ず别の谁かが……お前たちを……!!我々の世界を秽す魔王を――!!正义の刃をもって讨ち果たす!!それだけは……覚えておけ!!」
何とかして、この死地から脱け出し、人々の期待に応えたい、と瞳を尖らせる一方で、魔王にきらめく白刃を振り上げ、あまつさえ、その命を讨ち获ろうとした怨敌である自分は、敌地であるこの魔界の中心から、生きて帰る事などできないだろう、と気付いていた。
だが、しかし。
降りかかる下劣な劣情を噛み杀しながら言い切って、ディルトは真っ直ぐに闇を见据えて颚を引いた。
「ッ……く……うううッ!!き、さま……ら……!!こんな……こんな事をして……何が…楽しい……ッ!!」
独りきりで牢狱に繋がれている永远のような静寂の中ならいざしらず、今は、目の前に宿敌の一味である魔族たちが頬を歪めて嗤っているのだ――!
今までよりも明确に低く冷えた声音が、鉄格子の向こう侧からディルトの身体目がけて降り注いだのだ――。
决然と言い放ち、ディルトは身体中の决意を拳に込めた。
暗く狭い牢の中で目覚め、己が捕らえられたのだと気付いた瞬间から、死は避ける事ができないとディルトはどこかで悟っていた。
「安心しろよ、勇者サマよォ……。テメエはこの场所で死ぬ事はねェし、この先だって杀されはしねェ。何しろ――テメエは死ぬよりもずっとヒデェ目に……これからたっぷり遭うんだからなァ……!!」
相も変わらず、顽丈な枷と锁に拘束された両腕は、身体の後ろで动かす事もままならない。
26
もはや逃げ场がない事は明白だった。
「さあ、杀せ!俺とて几度も死地をり抜けてきた戦士だ、戦いに赴き、刃をかざした瞬间から、死する覚悟はできている!だが、覚えておけ!俺は……勇者ディルトは、この身を体内からテールに食い破られようと、贵様ら魔族に嘲弄され、下劣な策によって踏みにじられようと……!决して……!决して膝をつき、刃を折る事はありえない!!この身体の五臓六腑がテールに喰らい尽くされ生を终えるその时まで……!この命が燃え尽きる正に最期の一瞬まで……!!俺は正义の剣を高らかにここで掲げ続ける!!遗された人々の为……そして――いずれ俺の亡骸を超えて、魔王から世界を取り戻す新たな勇者の、その为に――!!」
鼓膜を打った钝い声音に、ディルトは
後は最期まで……この命の燃え尽きる最期の一瞬まで。
思い至って、ディルトが形の整った唇から『どうした、杀す事もできないか』と声を吐き出そうとした、直前だった。
後は――頼んだ――。
勇者として、そして一人の人间として、高洁に、勇ましく立っていられれば――それでいい。
乱れた呼吸のその合间に、力を込めて言叶を纺ぐと、ディルトは燃える瞳で眼前の魔族たちをねめつける。
最前のテールからの暴虐によって、自分がいかに力を振り绞っても、この牢から脱出する事はおろか、触手たちの进军に抗いきる事すらままならないのは明らかだ。
「な、なに――を……!!」
こんな低俗な刺激と感覚に、脇目を振っている暇はない。
「……はん、死ぬ……?杀す……?一体何を言っていやがるんだか。これだから――人间ってのは甘チャンでイケねェよなァ――」
「……?!」
今のディルトの両手には、确かに――确かに勇者としての気骨と、最後の闘志が握られている――。
天井から下がる锁を鸣らして奥歯を噛むと、それと同时に下の中では三本の触手が三重奏を奏でるように、巧みな器用さでうねりだす。
怒りと奋気に拳を握った瞬间に、ディルトの背筋をぞわぞわとした雄の劣情が行き过ぎる。
ならば洁く、これ以上の丑态をさらさずに、テールに体内から生を吸われ高洁な死を迎える事こそが、今の自分にできる勇者としての最善策なのではないか――。
「く……そ……ッ!」
ならば。